小林紀子バレエ・シアター「アナスタシア」 8月19日の感想
2012/08/26(Sun)
[芸術監督] 小林紀子
[振付] ケネス・マクミラン
[監修] デボラ・マクミラン
[ステイジド・バイ] ジュリー・リンコン
[音楽] ピョートル・チャイコフスキー/ボフスラフ・マルティヌー
[美術] ボブ・クロウリー
[衣装・装置提供] ロイヤル・オペラハウス

新国立劇場オペラパレス : 1階4列24番


以下、大雑把なあらすじ&思いつくままの感想ですが、簡単なメモは取っていたものの、現在残っている記憶に頼っている部分も多く、順番など違っているかもしれませんがお許しを。


冒頭にニコライ二世一家の記録フィルムが映し出される。 平穏な生活を送っている頃の映像で、まだ少女だったアナスタシアをズームアップしたところで幕が開き、物語が始まる。

<1幕> 皇帝所有の船スタンダルト号上にて

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皇帝、皇后の他に海軍将校や皇后アレキサンドラの友人アンナ・ヴィルボヴァ、ラスプーチンの姿が。
オルガ、タチアナ、マリアの3姉妹、軍服姿の将校3人の踊りに続き、白い帽子を被ったアナスタシアがローラースケートで登場する。 快活な少女アナスタシアの描写にしてもローラースケートとは奇抜(マールイのロミジュリでジュリエットが縄跳びで登場みたいな・・・)と思ったのですが、3幕の冒頭のフィルムでは当時の若い貴族たちが実際にローラースケートを楽しんでいる姿が映し出されました。 

1幕では、アナスタシアの幸せな少女時代という事で、特にドラマティックな展開はありません。 幸福な皇帝一家の心配事は血友病を患っている皇太子アレクセイで、船上の楽しいひと時にあっても常に皆がアレクセイを気遣っている。 ゆえにけっこうインパクトがあったのは、はしゃいで走り回っていた際に転倒して動けなくなったアレクセイをラスプーチンが自身の祈祷能力で治癒させて周囲から注目を浴び皇帝夫妻の信頼を得るシーン。  ラスプーチンの存在を印象付けるためのワンシーンと言ってもいいのかな?

一方ダンスシーンは驚くほど盛りだくさんで、チャイコフスキー交響曲第1番に乗ってアナスタシア、姉妹、将校たち、皇后、皇帝とあらゆる人が踊りまくります。 細かい脚捌きの多いマクミラン特有の振付で、トロワ、カトル、ソロ、デュオと次々とダンスが披露される。 軍服を着た3人の将校(後で中尾さんが加わり4人でも踊る)ではアントニーノ・ステラのゆったりと優雅な身のこなしが目を惹いた。 彼はザハロワが客演したスカラ座の「白鳥の湖」で道化を踊っているのだけれど、その時道化にしてはやけにノーブルだなぁと思った事があったのでした。 奥村さんともう一人の踊りも良かったです。 別の3人の水着姿の将校の踊りなんてのもありました。 半そでと短パンの繋ぎで縞々のむかしむか~しの水着です。 いや、あの人たち、あんな格好で出て来て船の甲板から海に飛び込むだけだったらかわいそうだよな~なんて余計な事を思っていたものだから、踊りがあって良かった良かった(笑)。 ただ、3人の踊り、4人の踊りなど似たようなフォーメーションでの踊りが多く、単調といえば単調。
それでも島添さんはマノン同様、初めての作品とは思えない雄弁な踊りとリフトでの表現の上手さで、マクミランの舞踊言語をしっかり自分のものとしてしまっているのだと思わせます。 
アレキサンドラ役の萱嶋さん(ファンです)はともかく演技の上手いダンサーで、淑女を演じさせたらもう絶品というイメージなのですが、今回も子供たちに細やかな愛情を注ぐ母親を好演。 演技だけでなくソロやアナスタシアとのダンスもしっとりと優雅で魅力的。

人々が思い思いに楽しんでいるところへ、第一次世界大戦勃発の知らせが入り、ニコライ二世は別れを惜しむようにアレキサンドラとダンスを踊り戦地に赴く。 ニコライ二世役の澤田さんは軍服がとてもサマになっていて一貫して温厚な人物という印象。 



<2幕> ペトログラード、1917年3月

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生活に困窮している市民が押し寄せる露店の商品はあっという間になくなってしまう。 亡くなった家族を荷車に乗せて運び、悲しみと怒りを顕わにする人たち。 彼らがその中を覗こうとした高い塀の向こう側、幕が上がるとそこにはアナスタシアの社交界デビューのための舞踏会という煌びやかな別世界が広がる。 
宮殿の舞踏会の広間という事で背景画などもコージャスだけれど、チラシにも使われている斜めに吊られた3つのシャンデリアが一際目を引きます。

貴族たちのダンスに続きアナスタシアと将校(中尾さん)のPDD。 2幕ではチャイコフスキーの交響曲第3番が使われているのですが、3番といえば自分的にはダイヤモンドなので、音符を大雑把に拾ったような振付にかなり違和感を覚えました。  
続いてマチルダ・クシェシンスカヤとパートナー(アントニーノ・ステラ)のPDD。 高橋さんの踊りは技術的にややいっぱいいっぱいだったためか、かつて皇帝に愛されていた女としての尊大さや皇后に対する敵対心などを踊りで表現する余裕がなく、皇帝の隣で不機嫌そうにしているアレキサンドラが逆に不自然に見えてしまった。 
二人の踊りが終わるや真っ先に席を立ったアレキサンドラに続くようにして全員が一旦広間を後にする。

不愉快な事など何もなかったかのように穏やかな表情で再び広間に戻って来た皇帝夫妻にラスプーチンが近づき、3楽章のゆったりと哀調を帯びた調べにのせ、3人が妖しくぎこちない雰囲気で踊る。 クシェシンスカヤが加わりさらに静かな緊張感が増したところへ彼女のパートナーが加わり5人の踊りとなる。 そしてその複雑な男女関係の一部始終を広間の入り口で目の当たりにしてしまうアナスタシア。 ただ、そこまでの人物関係の描写が不十分なので、入り組んだ大人の男女関係もアナスタシアの動揺もマクミランが意図したほどには伝わってこない。 ラスプーチンも皇帝夫妻の信頼をいい事に権勢を振るった怪人物というイメージには遠く、無表情に幾分ミステリアスな雰囲気を漂わせていただけだったのでいま一つこの役の重要性が感じ取れなかった。

再び広間に集まった人々は大団円さながらに晴れやかに踊り出すが(音楽は3番の終楽章が使われる。)、そこへ蜂起した革命軍がなだれ込み容赦なく貴族たちに銃弾を浴びせる。


<3幕>数年後

耳障りな電子音と女性たちの早口な会話が聞こえる。 閑散とした広い病室に一つ置かれたパイプベッドに腰掛けている一人の女性。 短く切った髪にスポンとしたグレーの長袖の入院着のその女性、アンナ・アンダーソンは自分は銃殺を逃れたロシア皇女アナスタシアだと主張している。 看護婦たちが現れ、その女性とともに舞台奥の壁に映し出される映像を見る。
楽しそうにローラースケートに興じる若者たちの様子から一変、軍の兵士に銃殺される人々など混乱に陥ったロシアが映し出され、さらに一幕と同じ皇帝一家の映像へと続く。
アンナの悲嘆の踊り。 スピーカーからは彼女の叫び声が。

アンナの頭に走馬灯のように蘇る革命後の様々な出来事が、アンナが間違いなく皇女アナスタシアである事の証であるかのように次々と展開されていく。
たぶん、このあたりからボフスラフ・マルティヌーの交響曲第6番「交響的幻想曲」が使われたと思うのですが、自分は初めて聞く曲なので現代音楽的な不協和音が多い曲も覚悟していましたが、わりと自分の耳に馴染みやすい旋律の曲で良かったです。
軍の兵士たちに銃殺される皇帝一家。 自分だけが農民たちに助け出され、その後結婚した夫との間に誕生する子供。 奪われてしまう子供。 銃を持った革命軍の兵士たち。 アンナを認めないロマノフ家の縁戚者たち。 銃殺される夫。 冷ややかさが不気味なラスプーチン。 
アンナが赤ちゃんを腕に抱きながら夫と踊るPDDがあったのですが、濃いグレー(に見えた)のおくるみに包まれた赤ん坊(人形)に硬直しているような印象を受けたため、生まれたもののすぐに死んでしまったわが子を手放せないで悲しんでいるような踊りに見えてしまいました。 違うと思いますが・・。
その後の夫役の中尾さんとのPDDは、すべての事に絶望しているようなアンナとアンナを励まし懸命に支える夫の姿がマノンの沼地のPDDを思い起こさせました。 開脚や体を捻ったり折り曲げたりという(その後のラスプーチンとの踊りだったかもしれませんが)リフトの振り付けそのものもマノンに似ていたし。 早い動きでの難しそうなポーズでもバランスを崩す事なく全身をしっかりコントロールしている島添さんも、その彼女を全く危なげなくサポートする中尾さんも素晴らしかったです。 
ラストのラスプーチンとのPDDはラスプーチンとの決別というか、激しいものがあったのですが、1,2幕でのアナスタシアとラスプーチンの関わりからだけでは、ここまでラスプーチンの影に怯え苦しめられるアンナの心理が分かりづらいと思います。
アンナがベッドに戻ると、病室の四方からニコライ二世、アレキサンドラ皇后、姉たちとアレクセイ、アンナの夫と、彼女の家族が次々と姿を現す。
ベッドの上で膝立ちで背筋をまっすぐ伸ばし前だけを見つめるアンナ。 するとベッドが静かに動き出し、静寂の中、家族一人一人の前をゆっくりと円を描くように一回りしたところで幕が降りる。 
信ずるがままの自己を認めてもらえないアンナの苦悩と悲しみがのしかかってくるような重苦しいラストシーンでした。



マクミランは、ベルリン・ドイツ・オペラ・バレエのバレエ監督就任一年目だった1967年のシーズンを「眠りの森の美女」のプレミア公演で終えようと考えていたのですが、その制作がなかなか進まなかったために、その代わりとしてトリプルビルの上演でシーズンを締めくくる事にしたそうです。 その際に「Diversions」「 Solitaire」と共に上演する作品として創作されたのが、この「アナスタシア」の第3幕だったとの事です。 ただ、そこまでの「眠りの森の美女」の制作に相当な金額を費やしていたために「アナスタシア」にあてられる費用はなく、衣装などもドイツ・オペラの衣装を使わざるをえず、十分にあったのはリハーサルの時間だけというエピソード付きの作品のようです。
彼はアシュトンの後任として1970年にロイヤル・バレエ団の芸術監督に就任しますが、その1年後の71年に「アナスタシア」を新たに創作した1幕と2幕を付け加えた全3幕として発表しています。
創作状況の様々な違いによりかなり乖離の感じられる1,2幕と3幕となっていますが、マクミラン自身がアンナ・アンダーソンという人物にそうとう衝撃を受け彼女の人生に興味をもっていたようなので、この題材へのこだわりが強く、フルレングスの作品として仕上げたかったのかもしれないですね。 ただ、皇女アナスタシアの生きていた時代背景の描写が冗長な割りには登場人物の人間関係が十分に描ききれていないなど、3幕への分かりやすい帰結となるように1,2幕が作られていないのが、観客的には残念です。
それでも自分は2幕の華やかな舞踏会シーンはけっこう気に入りましたし、今の時代においてすら第3幕は斬新で興味深いと感じました。 キャスト違いで何度も見たいと思わせる類の作品ではないですが、見ることができて良かったですし、島添さんはじめ、バレエ団の方々の作品上演に対する強い意欲とプロとしての真摯な姿勢も十分感じる事ができました。 また渡邊一正さん指揮、東京ニューフィルハーモニック管弦楽団の演奏も舞台上のダンサーと一体となっていてとても見事でした。 特にポーランドの3楽章はロパートキナにも彼らの演奏で踊らせてあげたかったと心底思いました。

振付家ケネス・マクミラン
http://www.kennethmacmillan.com/ballets/all-works.html
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