小林紀子バレエ・シアター「アナスタシア」 8月19日の感想(2)
2012/08/26(Sun)
<3幕>数年後

耳障りな電子音と女性たちの早口な会話が聞こえる。 閑散とした広い病室に一つ置かれたパイプベッドに腰掛けている一人の女性。 短く切った髪にスポンとしたグレーの長袖の入院着のその女性、アンナ・アンダーソンは自分は銃殺を逃れたロシア皇女アナスタシアだと主張している。 看護婦たちが現れ、その女性とともに舞台奥の壁に映し出される映像を見る。
楽しそうにローラースケートに興じる若者たちの様子から一変、軍の兵士に銃殺される人々など混乱に陥ったロシアが映し出され、さらに一幕と同じ皇帝一家の映像へと続く。
アンナの悲嘆の踊り。 スピーカーからは彼女の叫び声が。

アンナの頭に走馬灯のように蘇る革命後の様々な出来事が、アンナが間違いなく皇女アナスタシアである事の証であるかのように次々と展開されていく。
たぶん、このあたりからボフスラフ・マルティヌーの交響曲第6番「交響的幻想曲」が使われたと思うのですが、自分は初めて聞く曲なので現代音楽的な不協和音が多い曲も覚悟していましたが、わりと自分の耳に馴染みやすい旋律の曲で良かったです。
軍の兵士たちに銃殺される皇帝一家。 自分だけが農民たちに助け出され、その後結婚した夫との間に誕生する子供。 奪われてしまう子供。 銃を持った革命軍の兵士たち。 アンナを認めないロマノフ家の縁戚者たち。 銃殺される夫。 冷ややかさが不気味なラスプーチン。 
アンナが赤ちゃんを腕に抱きながら夫と踊るPDDがあったのですが、濃いグレー(に見えた)のおくるみに包まれた赤ん坊(人形)に硬直しているような印象を受けたため、生まれたもののすぐに死んでしまったわが子を手放せないで悲しんでいるような踊りに見えてしまいました。 違うと思いますが・・。
その後の夫役の中尾さんとのPDDは、すべての事に絶望しているようなアンナとアンナを励まし懸命に支える夫の姿がマノンの沼地のPDDを思い起こさせました。 開脚や体を捻ったり折り曲げたりという(その後のラスプーチンとの踊りだったかもしれませんが)リフトの振り付けそのものもマノンに似ていたし。 早い動きでの難しそうなポーズでもバランスを崩す事なく全身をしっかりコントロールしている島添さんも、その彼女を全く危なげなくサポートする中尾さんも素晴らしかったです。 
ラストのラスプーチンとのPDDはラスプーチンとの決別というか、激しいものがあったのですが、1,2幕でのアナスタシアとラスプーチンの関わりからだけでは、ここまでラスプーチンの影に怯え苦しめられるアンナの心理が分かりづらいと思います。
アンナがベッドに戻ると、病室の四方からニコライ二世、アレキサンドラ皇后、姉たちとアレクセイ、アンナの夫と、彼女の家族が次々と姿を現す。
ベッドの上で膝立ちで背筋をまっすぐ伸ばし前だけを見つめるアンナ。 するとベッドが静かに動き出し、静寂の中、家族一人一人の前をゆっくりと円を描くように一回りしたところで幕が降りる。 
信ずるがままの自己を認めてもらえないアンナの苦悩と悲しみがのしかかってくるような重苦しいラストシーンでした。



マクミランは、ベルリン・ドイツ・オペラ・バレエのバレエ監督就任一年目だった1967年のシーズンを「眠りの森の美女」のプレミア公演で終えようと考えていたのですが、その制作がなかなか進まなかったために、その代わりとしてトリプルビルの上演でシーズンを締めくくる事にしたそうです。 その際に「Diversions」「 Solitaire」と共に上演する作品として創作されたのが、この「アナスタシア」の第3幕だったとの事です。 ただ、そこまでの「眠りの森の美女」の制作に相当な金額を費やしていたために「アナスタシア」にあてられる費用はなく、衣装などもドイツ・オペラの衣装を使わざるをえず、十分にあったのはリハーサルの時間だけというエピソード付きの作品のようです。
彼はアシュトンの後任として1970年にロイヤル・バレエ団の芸術監督に就任しますが、その1年後の71年に「アナスタシア」を新たに創作した1幕と2幕を付け加えた全3幕として発表しています。
創作状況の様々な違いによりかなり乖離の感じられる1,2幕と3幕となっていますが、マクミラン自身がアンナ・アンダーソンという人物にそうとう衝撃を受け彼女の人生に興味をもっていたようなので、この題材へのこだわりが強く、フルレングスの作品として仕上げたかったのかもしれないですね。 ただ、皇女アナスタシアの生きていた時代背景の描写が冗長な割りには登場人物の人間関係が十分に描ききれていないなど、3幕への分かりやすい帰結となるように1,2幕が作られていないのが、観客的には残念です。
それでも自分は2幕の華やかな舞踏会シーンはけっこう気に入りましたし、今の時代においてすら第3幕は斬新で興味深いと感じました。 キャスト違いで何度も見たいと思わせる類の作品ではないですが、見ることができて良かったですし、島添さんはじめ、バレエ団の方々の作品上演に対する強い意欲とプロとしての真摯な姿勢も十分感じる事ができました。 また渡邊一正さん指揮、東京ニューフィルハーモニック管弦楽団の演奏も舞台上のダンサーと一体となっていてとても見事でした。 特にポーランドの3楽章はロパートキナにも彼らの演奏で踊らせてあげたかったと心底思いました。

振付家ケネス・マクミラン
http://www.kennethmacmillan.com/ballets/all-works.html



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