東京バレエ団「ジゼル」 8月17日の感想
2011/08/24(Wed)
チュージンは昨年のダンチェンコ来日の際はキャスト変更の煽りで見ていないので、2008年のミハイロフスキー劇場でのロミジュリ以来、約3年ぶり。 あの時は小柄なヤパーロワちゃんと組んでいてもそれほど違和感なかったのだけれど、ウィルフリードの柄本君よりもちょっと高い身長にけっこうびっくり。 
ウェーブがかかった豊かな金髪のチュージンは貴公子というより、冒険物語のヒーローにでもしたいような感じですが、彼のアルブレヒトはプレイボーイ路線とも純愛路線とも違う、たまたま見つけた美しい娘に惹かれた今の気持ちに正直な恋って感じかな? 
踊りは若さと勢いを感じるもので、一幕の最初の跳躍の高かった事。 その後はヴィシニョーワとのバランスを考え少し遠慮がちだったような気さえしました。 高いアントルラッセの跳躍でさらに高く上げられた脚も見事でしたが、好みとしてはあまり美しくは感じなかったです。 比較してはいけないけれど、先日のフォーゲルの美しいフォルムとは違う。
チュージンに関しては2幕でのアントルシャの高さと脚捌きの細かさが特筆ものだったかと。 腕の反動を全くつけない脚力だけのジャンプであれだけ綺麗に高く飛べるというのも凄いですね。 チュージンの脚はすらっとしてたけど、太ももはそれなりに筋肉がついてましたものね。 サポートとリフトも上手かったですが、歩き方がちょっと気になったかな。
お芝居的には特に思うところはなかったです。 身分の高さや気品などはしっかり出していたと思うけれど、ジゼルに対しての愛情がつかみにくかった。 これは多分に情念的なヴィシとのバランスの問題かもしれませんが。
ラストシーンでは、ジゼルが消えてしまったあとに、夢か幻かと問うような表情も一瞬見せていたと思いますが、視線の先にジゼルがミルタに捧げようとした百合を見つけて、自分の命を助けてくれた彼女の深い愛の尊さに改めて気づいて愕然としたアルブレヒトでした。 最後に高くかざした一厘の百合を悲痛な面持ちで見つめながら立ちすくむアルブレヒトは何を思っていたのだろう。 

ヴィシのジゼルは2006年のマラーホフとの共演以来ですが、ちょいとびっくりしたピンクの衣装からスタンダードな白にブルーというものに変っただけでなく、髪形も1幕から耳を隠し、お化粧もトーンを落としている感じで、元気な娘というイメージから一転してやや内向的でねっとりとした艶と影のあるジゼルでした。 
この日のヴィシニョーワのジゼルは、1幕からすでにあちらの世界の気配を身に纏っているようで、ラストの狂乱のシーンを待たずとも、何かの拍子に魂が肉体を離れてしまいそうな瞬間がいくどか見られたように思います。 そして多くの人が演じるジゼルより胸の苦しみに襲われるシーンが多く、アルブレヒトがバチルダの手に口付けをしたのを見て卒倒するなど、狂乱して死に至るというラストシーンへの伏線が多かったと感じました。 
その狂乱のシーンは大仰なものではなく、アルブレヒトの愛が偽りのものだったというショックと絶望に心が壊れて徐々に気が狂れていった姿をしっかりとみせてくれた。 ただ少々不自然なほどに傾いた首の角度が恐くてですね・・、悪霊に取りつかれたエクソシストチックなホラーが始まるんじゃないかと思うくらいの勢いでちょっと背筋がぞおっと。
役作りからメイクからいろいろ前回と違ったというのもあるのだれど、1幕の間は時折ヴィシがフェリに見えたり、オシポワに似て見えたりして、なんだか落ち着かない感じもしたのでした。
  
踊りに関しては身体能力の高さというか揺ぎ無いヴィシのダンステクニックの素晴らしさにも改めて感心させられました。 ウィリの登場シーンの旋回の軸のぶれなさと速さは見事だし、そういう秀でたテクニックでの踊りにこれみよがしな印象を与えなかった事はそれ以上に感嘆すべき事なのだろうなと。 また、チュージンにリフトされて宙を漂うヴィシニョーワの姿がとても美しく、儚げで昇天しそうというのではなく、そこにもしっかりした意思があるのだけれど、まさに幻想の世界の美しさでした。 ま、チュージン共々2幕の出だしのPDDで物凄い着地音を立てていたのは、かなり気になったし、ヴィシはポワントのせいか、かなり足音が大きかったのが残念。
ウィリとなったヴィシのジゼルはアルブレヒトを強く思い、必死で守ろうとしていたけれど、目の前のチュージン演じるアルブレヒトと感応しながらドラマを紡いでいるという感じは希薄に思いました。 最後、夜明けを告げる鐘が鳴り、倒れているアルブレヒトの後ろから両手を広げ優しく包み込むようにした時に初めて感じたかなぁ?

東バのジゼルはけっこう見ていますが意外にも田中さんのミルタは初めてで、以前見たと思っていたのは高木さんでした。 堅固な意志を持って情け容赦なく獲物は踊らせ殺すという強さのあるミルタでしたが、威厳と存在感はもう一つというところ。 安定感のある踊りはいつも通りだけれど、上半身と腕がもう少し柔らかな軌跡を描ければなぁ。 できれば跳躍での足音はもう少し消して欲しい。 ドゥ・ウィリの西村さんと吉川さんは良かったです。 
ヒラリオンの木村さん、どんなゲストが来てもひけをとらないスタイルとプレゼンスは、観客としても頼もしい限り。 ジゼルの家の戸口に立ち、彼女の事を思いながら一人はにかんだり浮かれたりして鼻の下を伸ばしている様子を見るといつもこちらが気恥ずかしくなってしまうのですが、この登場のシーンはけっこう好きです。 演技はヴィシに合わせてか、けっこう濃かったように思います。 アルブレヒトが貴族たちがやって来るのに気づいて上手に去って行く時、その後姿を追いかけて、必ず正体暴いてやるぞとばかりにがん飛ばしていた姿が熱かった。
ウィルフリードの柄本さんも地味ながらいい演技。 特にジゼルとの軽はずみな恋愛を諌めようとして反対に怒られてしまった時の、誰も傷つかないうちに止めて欲しいというような悲しそうな顔が印象的だった。
パ・ド・シスは良く纏まっていたと。 緑組、茶組、それぞれに男の子の踊りがけっこう揃っていたのを見て、昔はお互い合わせようなんて意識が全くなかったよなぁと変に懐かしく思い出したりして。
美佳さんのバチルダもお初でしたが、清楚で気品ある貴族の姫でしたね~。 アルブレヒトがジゼルに手を出したという事自体にはわりと冷静で、ジゼルとは住む世界の違いのようなものを感じさせていた。 見た目も私的には美佳さんとチュージンの方がしっくりしていた感じです。

ヴィシもチュージンもそれぞれのジゼルとアルブレヒトを演じ、踊りきったと思いますが、やはり初顔合わせでのジゼルという物語は微妙なものがあるというか、オーソドックスでないアプローチだからとかいろいろありましたが、この役柄としては合わない組み合わせだったのかなという気もしないではない初日公演でした。
ヴィシニョーワはマリインカのロンドン公演のあと、一息つく間もなく日本に来てくれたのですよね。 その彼女の気持ちはとっても嬉しかったです。 もちろん、チュージンにも来日してくれて感謝です。
  



ジゼル: ディアナ・ヴィシニョーワ
アルブレヒト: セミョーン・チュージン
ヒラリオン: 木村和夫

<第1幕>
バチルド姫: 吉岡美佳
公爵: 後藤晴雄
ウィルフリード: 柄本弾
ジゼルの母: 橘静子
ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
高村順子-梅澤紘貴、乾友子-長瀬直義、佐伯知香-松下祐次、吉川留衣-宮本祐宜

ジゼルの友人(パ・ド・シス):
西村真由美、高木綾、奈良春夏、矢島まい、渡辺理恵、川島麻実子

<第2幕>
ミルタ:田中結子
ドゥ・ウィリ:西村真由美、吉川留衣


指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

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