国立モスクワ音楽劇場バレエ「白鳥の湖」 4月18日の感想
2010/04/24(Sat)
<プロローグ>
薄手の淡いピンクのドレスを纏い、花摘みに夢中になっている王女オデットの頭上の岩山から、巨大な羽が振りかぶさってきてあっという間にオデットを捕らえてしまう。 実際のところは分からないけれど2メートルはあろうか思えるロットバルトの大きな羽。 あれを両腕につけてはためかせるだけでも体力消耗という感じ。

<1幕>
プーホフは長身でしっかりとした体つきのダンサー。 99年モスクワ舞踊アカデミー卒だからまだ20代なのに、オールバックに撫で付けた髪と目の周りの変な化粧のせいでいささか微妙な佇まい(笑)。 
王子が友人や村人たちとの宴を楽しんでいるところに現れた王妃。 このような下々の者たちと気安く付き合うのではありませんとばかりに村人たちを追いやってしまう時の高慢な表情など、なかなかきつそうな王妃だけれど、踊らない役のダンサーたちの堂に入った演技というのもこの版の見所の一つだと思う。
セルゲイエフ版などのパ・ド・トロワにあたる男性二人女性二人によるパ・ド・カトル。 当然のことながら振付がかなり違うので新鮮というか馴染めないというか・・・。 男性のクジミンとハムジンはプリンシパル(レドフスカヤ、ソーモア、スミレフスキ、チュージンはシニア・プリンシパル)という同ランクで似たような背格好のためか、エスメラルダでも将校コンビで見たし、前回の白鳥もこの二人だった。 モロゾフとマスロボエフか・・・。 跳躍力はクジミンの方が優れているのかもしれないけれど、美しくまとめているハムジンの方が好みだった。 ここで、急にわけもなくヤフニュークが懐かしく思いだされてしまいましたわ・・・。
女性のハムジナとクラマレンコはまだコール・ド・ダンサーのようですが、二人とも踊りなれている感じだったし、どちらがどちらか分かりませんが、ブルーの衣装(多分)で第2ヴァリエーションを踊ったバレリーナが柔らかい踊りで綺麗だった。
家庭教師がいないこの版は、その分をカバーして踊ったり場を盛り上げたりする道化の比重が大きくなっている。 アキンフェーエフはエスメラルダでも道化にキャストされていたダンサーで、軸のまっすぐなピルエットは安心して見ていられました。 
前回の記憶があまりないのでキャスト表にアダージョと記載されているのはいったい何なのだろうと思っていたら、一幕の王子の踊りに使われる黒鳥のパ・ド・ドゥで王子と踊るダンサーの事でした。 ちょっと丸顔のミキルチチェワもまだコール・ドのようですが、王子に仄かに思いを寄せる初々しさが感じられて良かったです。 カトルの女の子もそうだけれど、皆、表情が生き生きしているな~と。
遠くの空に視線を止めた王子は心ここにあらずというように何かを追い求め始める。 その存在をすっかり忘れられてしまい、ポツンと居心地悪そうにしているミキルチチェワに道化が駆け寄り皆の踊りの輪に加わる。 本当にいろいろと気遣いしまくる道化君でした。 

<2幕>
オデットのナタリア・ソーモアは長身でスタイルもよく白鳥姿がよく映える。 1999年にクラスノダール舞踊学校卒業との事なのでプーホフとは同級ペアなのね。 経歴は知らないで舞台を見ていたのだけれど、中堅どころならばもう少し、白鳥の女王らしさがあっても良かったかな? 踊りは安定していて伸びやかに広げる手足によどみがなくて気持ちよく、抑制がきいていたのも良かった。 優しげな童顔のせいかソーモアのオデットは儚げでも悲しげでもなく・・・、だから王子との出会いにインパクトがないとまでは言えないのだけれど、二人のPDDの間に、オデットが王子に運命を託す相手として心惹かれていくというドラマが少し見えにくかったような気がします。 なんか、ホワンとしたオデットなんだよね。 一方のプーホフの方も、別にサポートで精一杯という余裕のなさではなかったのだけれど、いまひとつ心が掴めませんでした。 久しぶりにかき鳴らされるハープとコンマスの美しいヴァイオリンの音の掛け合いにうっとりしちゃったかなぁぁぁ。
エスメラルダの時にはわんさかわんさかいたはずのコール・ドですが、湖畔では18人だったのでちょっと寂しい。 よく揃っていたけれど(4羽の揃いっぷりも見事)ムーブメントにメリハリがありすぎて詩情を感じさせる白鳥さんたちではなかったです。 
そういえば、ロットバルトはあまり出てこなかったような・・・。 遠くから魔力で支配していた??

<3幕>
圧巻の一言。
指揮者が登場し、指揮台に上がりながら振り上げた手でオケが演奏を開始するというびっくりするような幕開け。
アキンフェーエフの道化に別の道化が3人加わって軽快な踊りを披露。 エスメラルダでもさかんにやっていた馬飛び系多し。 
4人の花嫁候補は色違いでお揃いのミディ丈のドレス。 それぞれが王子の関心を引こうと華やかに魅惑的に踊っても、オデットが落として行った一枚の白い羽を見つめている王子の心にはオデットしかいない。 
2度目のファンファーレでロットバルトご一行様が現れてからは、ドキドキゾクゾクするような緊張感と高揚感に包まれて、一瞬たりとも舞台から目が離せない素晴らしいパフォーマンスでした。
スペイン、ナポリ、ハンガリー、マズルカのそれぞれのメインの踊り手が次々と挑発的な視線を王子に投げかけ情熱的なダンスを繰り広げ、その間、何度かオディールをチラチラと垣間見せながら王子の心を乱し翻弄しようと畳み掛けていく様は圧倒的で計算しつくされた一つのショーのようだった。 ロットバルトは特に踊りのシーンはなかったように記憶してますが、舞踏会場を所狭しと歩き回り、抜かりなく、筋書き通りに計略を進めていく冷徹な黒幕という感じ。
 残像を繋ぎながら少しずつ少しずつ魅せられていったオディールが誘惑者としてようやく自分の目の前に現れると王子は一瞬にして陥落してしまったようでした。 あれだけやられれば無理もない。
しかし、音楽、速かった・・・。 あと、主旋律をかき消してしまうほどの怒涛のティンパニーね・・・。 この世にゃ俺とティンパニーしか居ねぇぇぇぇぐらいの陶酔ぶりでした。
ソーモアはオデットよりもオディールの方が魅力的でした。 自信に溢れギラギラした強い視線を浴びせるタイプではなく、小悪魔的に王子を魅了していくオディール。 一幕で黒鳥のPDDの曲を使っているので、ここはチャイコフスキーPDDの曲で踊られるのだけれど、ヴァイオリンの音色が非常に引き立っていながらどこか不吉な感じの翳りのあるアレンジがくせになりそうな感じ。 
ソーモアはここでもくせのないきっちりとした踊りでした。 グランフェッテも軸ぶれせず前に出てくるパターン。 プーホフはサポートは万全。 回転系はぶれもなくて得意のような気がしますが、アラベスクなどのラインがいまいち美しくないかな。 特に膝から先がぬるい。

<4幕>
白鳥たちのフォーメーションが見慣れているセルゲイエフ版とはかなり違っていて新鮮な美しさを感じました。 こればかりは絶対に2階以上から見下ろすに限りますね。 白鳥たちの踊りからは舞踏会へ様子を見に行ったオデットの事を心配している心情や、王子の裏切りに傷ついたオデットを労わる思いがじんわりと浸み入るように伝わってきました。 白鳥の群れの一体感としてこれだけ表現できるのも素晴らしいと思います。 エスメラルダの群集シーンでもそうでしたが、多くのダンサーたちが役になりきって同じ心情を共有し、それを表現するというのがこのバレエ団ならではなのでしょうか。 
王子が湖畔に戻ってきてオデットを捜そうとすると、白鳥たちはこれ以上オデットに辛い思いをさせてはならないとでもいうようにオデットを王子の目につかないように群れの真ん中に隠し王子のもとから去っていく。 視線を落としうなだれながら群れと一緒に立ち去ろうとしたものの、王子への募る思いに耐えられず、思わず歩を止め、絶望のあまり倒れこんでしまっている王子に駆け寄るオデットが切ない。 オデットの決断を急き立てるような旋律がこのシーンをよりドラマティックにしている。 
オデットは王子を許したのだと思うけれど、王子を受け入れない白鳥たちの気持ちを考えればやはり王子と別れなければならず、体を震わせ苦しい胸の内を打ち明けながら白鳥たちの後を追う(というように感じました)。
さて、ここまでは引き込まれる様に見ていたのに、その後、オデットとジークフリートがどうロットバルトと闘ったのかをなぜか全く覚えていなくて・・・。 岩山の頂上から魔力で王子を湖に沈めようとするロットバルトともがく王子の姿は覚えているのだけれど。 なんとか王子が立ち上がりロットバルトに向かっていくと(オデットと一緒でした?)炎とともにロットバルトは滅んでしまう。 そして岩場に倒れていたのは人間の姿に戻ったオデットだった。 で、良かったっけかな? 
オデットとジークフリートが二人の愛の力でロットバルトに立ち向かい・・・というラストの盛り上がりが、なぜか曖昧だったように思うのが残念ですが(自分のせいか?)、ブルメイステル版のご本家ダンチェンコの「白鳥の湖」は、また持って来てくれれば何回でも見たい魅力的な作品だと思います。

そして、美しい衣装と舞台装置に渾身のオケ! 総合芸術であるバレエの素晴らしさを久しぶりに改めて感じさせてくれたすべてのスタッフに感謝です。 次回の来日を心待ちにしています♪


オデット&オディール: ナタリア・ソーモア
ジークフリート: ミハイル・プーホフ
王妃: ガリーナ・イスチェンコ
悪魔ロットバルト: アントン・ドマショーフ
道化: デニス・アキンフェーエフ
アダージオ: エリカ・ミキルチチェワ
パ・ド・カトル: アンナ・ハムジナ、マリア・クラマレンコ、セルゲイ・クジミン、ドミトリー・ハムジン
3羽の白鳥: イネッサ・ヴィクブラートワ、エリカ・ミキルチチェワ、マリア・ボロディネツ
4羽の白鳥: キーラ・ブリシェナ、アンナ・ヴォロンコーワ、ガリーナ・イスマカーエワ、ユリア・ゴリュノーワ
スペインの踊り: カドリヤ・アミーロワ
ナポリの踊り: アンナ・ヴォロンコーワ
ハンガリーの踊り: クセーニャ・シラジャン、ダリヤ・ダリエンコ、アレクサンドル・セレズニョフ、ドミトリー・ロマネンコ
マズルカ: イリーナ・ベラヴィナ、エリマル・クガートフ
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